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ツキノワグマ=2022年9月、秋田県、滝川あかりさん撮影
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現場へ! クマ対策の最前線(1)

 7月中旬、盛岡市郊外の猪去(いさり)地区で、約50人が草刈りに汗を流していた。

 山裾に広がり、リンゴ栽培が盛んな同地区では年3回、集落周辺に設置した電気柵付近の草刈りが行われる。集まるのは、地元住民だけではない。岩手大学の教員やサークル「ツキノワグマ研究会」(以下クマ研)の学生、市職員、地区外の有志と多様だ。

 地元の人が電動の草刈り機を操る近くで、クマ研のメンバーの滝川あかりさん(22)は、電気柵のまわりに生えた雑草を鎌で刈った。「参加当初は鎌を使う際に、力まず手前にひくコツをつかむのが大変だった」と汗をぬぐった。

 朝から2時間ほど作業をした後、参加者たちは猪去振興センターに集まった。クマ研では猪去にセンサーカメラ8台を設置し、野生動物の調査をしている。年に2度、その結果を地域の人たちに発表しているのだ。

 過去のクマの侵入ルートの調査結果をうけて、住民によって水路に電気すだれが設置された経緯が、発表された。参加者は熱心に聴き入り、「対策にはどんなグッズがいいのか」などと活発に質問が出た。

 調査発表の後は、昼食を食べながら交流会だ。「さっき山でとってきたブルーベリーだよ」「卒業後はどうするんだ?」。作業の苦労をねぎらいながら、わきあいあいの会話が続く。1年生の時から参加する滝川さんは「昨年は猪去の運動会に参加した。猪去の方々はいつも優しく声をかけてくれる」と語る。

 こうした猪去地区の取り組みは、いまでは「地域ぐるみでのクマ対策の成功例」として、たびたびメディアなどで紹介されている。「だが、始めた当時は様々な問題があった」と、長年関わる岩手大農学部の山本信次教授(56)は振り返る。

 猪去地区でクマによる農業被…

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